吉田正記念オーケストラ
指揮者のひとり言 パート2
サンロック教会り
フランス サンロック教会
 先日、ある高級ホテルで朝食を取りながら耳を澄ますとマントバーニーオーケストラのBGMが心地良く聞こえ、さわやかな朝を演出するのに十分に美しい弦の調べであった。そして、夜のカクテルラウンジではパーシーフェイス楽団の甘くとろけるようなムード音楽が流されていた。

改めて気付いた事だが、このような環境で自然に耳にするタイプの音楽はことごとく舶来品であり、本格的に常設されているムードオーケストラがわが国には存在すらしていない事に驚きを覚えた。それは、まさに吉田先生がシベリアの過酷な不法抑留に耐え忍び帰国を果たしたとき、当時の日本が大東亜戦争直後から急激に吸収した米国のジャズを中心とした洋楽に席捲されていて、どこに行っても和製のポピュラー音楽が存在しない事に気付いた吉田先生が、一念発起、都会調歌謡曲を作り始めたという逸話に類似している

昨今クラシック界においては欧米を上回るほどの水準に達したと言える位、指揮者やソリストを始め多数の音楽家が国際舞台で活躍しており、小沢征爾氏のウイーン国立歌劇場音楽監督就任はその象徴ともいえる。オリンピックに例えれば、日本人には到底困難と思われる陸上の100メートルで3大会連続で金メダルを取るに等しいほどの快挙であろう。このようなクラシック界の現状に比較してムードオーケストラが存在しないという異常な現実を解消するために吉田正記念オーケストラが結成されたといえなくもない。

公演より
プリエール氏によるメンデルスゾーンのコンチェルト
私事で恐縮だが30年にわたり、クラシックの世界で欧米人と競い勉強もしてきた。しかし自分からレコード盤に針を落としたのは歌謡曲、タンゴ、ラテン、ジャズ、映画音楽などのいわゆるポピュラー系の音楽であった。指揮者は古典クラシックの権化のような存在であるが、その私でも音楽のジャンルは問わない。吉田正記念オーケストラはそのような私を含め、クラシックを専門に勉強しきた演奏家によって構成されるのでシンフォニーとポップスの融合が最大のテーマである。と同時にポップスを逆の発想でクラシックに近づけるという使命もある。吉田メロディーの交響曲化がその好例であろう。

アンディウイリアムスが歌う慕情やムーンリバーとマントバーニー楽団の演奏のどちらが良いか比べるのはナンセンスである。歌謡曲も同様にオーケストラの演奏によって、歌の入った原作とは異なる魅力が引き出される作品は多々ある。吉田先生がかつて、人の会話を邪魔せずに自然に耳に入れてもらえるような曲を作る事が理想であり、究極の目的あると言われた想いは何時の日か吉田正記念オーケストラの演奏する吉田メロディーがさりげなくBGMとして聴こえてくる事によって実現することであろう。

吉田正記念オーケストラ音楽監督
大沢可直